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ベルリン・シラー劇場―ジークフリート [オペラ(海外)]

 その様に作曲されていると言えばそれまでだが、深い森の奥へ誘い、自然への畏れ抱かせるような始まりだった。続く打楽器のリズムも微妙にふくらみ、森の空気がよどむ。ここ何年かで実感するようになった、"凄い"音楽とは、間よりもっと繊細な、微妙な揺らぎなのだと確信してきた。それは、歌でも楽器でも共通しており、何度も繰り返されるが、同じでない人間の営みが音の中に象徴されている気がする。予測できない微妙な反応が、新鮮な感覚につながる。
 1幕でこんなに、甘く優しい声のミーメを聞いたのも初めてだ。ジークフリートに母親のことを語り始める囁きが、あまりにきれいで、こんな声のジークフリートも聞いてみたいと思った。一方シャーガーは 、東京でジークフリートを聞いた時より乱暴な歌い方で、少しぐらい声が裏返っても、野生児らしくガンガン叫んだ。舞台セットのせいもあるが、意外にも、1幕では大きな体を真っ正直に正面を向いて歌う場面が多く、ミーメ役リュガマーの演技がどれ程秀でているか良くわかった。
 2幕は終止暗い森の中で、オペラグラス無しでは、良く舞台が見えず、息苦しくなったのは、自分一人では無かったようだった。2幕のミーメは、今度は聞きなれたしゃがれた声でアルベリヒとのやり取りはさすがだ。ジークフリートは同じ調子で突進し、森の小鳥はピット端で歌い、舞台上は、羽をつけたダンサーが演じた。
 3幕までシャーガーの声は全く疲れ知らずで、テオリンと二人とも演技も歌も満足だった。
 3幕の始まりのテンポが少しゆっくりめで、リズムが理想的でとても感激した。行進曲にならない演奏が出来ることを、バレンボイムも披露してくれた。やはり音楽が自分に語りかけてくれていると感じる至福の時を求めて、ドイツ各地を訪ね歩いたのかなと、今になって気づく。芸術家に感謝。
 3年前のチクルスは、シラー劇場に移ったばかりで、まあ普通の演奏だった。今回は、この劇場に相応しいような、綿密に練られ、最高の仕上りだったと思える。2002年バレンボイムのリンデンのチクルスを聞いた人によると、以前はもっとすごい迫力だったが、むらがあったと。
 マエストロは右耳に何か入れていて気になるが、これからも益々元気で意欲的な公演を続け欲しいと願っている。(G)
指揮:Daniel Barenboim
Siegfried:Andreas Schager
Mime:Stephan Rügamer
Der Wanderer:Iain Paterson
Alberich:Jochen Schmeckenbecher
Fafner:Falk Struckmann
Erda:Anna Larssoy
Brünnhilde:Iréne Theorin
Der Waldvogel:Christina Gansch
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