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東京・春・音楽祭 《トリスタンとイゾルデ》 [オペラ(国内)]

 東京・春・音楽祭が始まって、今年は第20回、ワーグナーシリーズは第15回だが、その間、東日本大震災とコロナで2年、計3回の公演が中止になった。N響で、毎春ヴァーグナーを聴く楽しみができ、ヤノフスキーの厳しい要求を克服して来た本番の姿は、通常のN響と違う。
 今年の第一印象は、以前ほど、ヤノフスキーのオケに対する強要が激しくないのではないかということ。以前は隅々まで容赦なかった。勿論オケのメンバーが若返り、管弦共に、個人がレベルアップしたと認めたのかもしれないし、教え子たちの自主性に多少は任せるようになったのかなと、勝手に想像している。少なくとも、オケサイドのエネルギーは出しきっていたと思う。
 個人的には、ゲストコンマスが、メットのコンマスになったこと、チェロ主席の辻本さんの奏でる、ストラドの音色が素晴らしく、情熱一杯に演奏してくれたことは、今年の嬉しいポイントだった。
 ヤノフスキーは、作品そのものへの感動というより、あの複雑な音楽をコントロールしている自分に、指揮者としての自負があるのではないだろうかと思ったりする。研究する行為、解き明かす行為が好きな学者先生のように。それで高速でお仕事をし、聴衆に負担を掛けないことも集客の秘訣になるかもしれない。
 老化した自分の耳に自信が無いので、たまたまその日、どう聞こえたかという話になるが、三幕で、1Vnの難所を無事超えた後の2Vnの音が消えた事や、良くできたところと練習されていない所の落差が見受けられたのは、やはり指揮者の加齢に伴うお目溢しなのか。また、一幕の男声合唱が、異様に大きく感じられたが、フリードリヒの指導なのか、指揮者とフリードリヒ共に高齢なので、当然耳も変化してきているだろう。
 東京春のヴァーグナーでは、どちらかと言えば、歌手より、多分オケが主役なので、イゾルデが聞こえなくとも、オケが抑えることはなさそうだ。
 思い起こすと20年以上前は、N響の方々で、自分はヴァーグナーは聴いた事がない、でも済まされていたと思う。初めてN響のトリスタン三幕を聴いた時、イングリッシュホルンが、抑揚なくひたすら譜面通りのリズムで吹いたことに、聴衆の何分の一かは愕然としたと思う。その時から比べれば、東京春祭で、毎年ヴァーグナーを演奏させられたことで、メンバーの意識が変化したことは想像できる。
 今年の木管ソリストの皆様は素晴らしかった。発展途上であっても、N響のトリスタンがここまで来たことは、嬉しい。
 スケルトンのトリスタンは、2016年メットのライブビューイングで初めて聴き、その後2022年、23年のミュンヘンフェスティバルの実演までチャンスがなかった。問題無く、悟ったように歌い尽くしてくれたが、やはり、かなりの体型なので、御身ご大切にお願いしたい。
指揮:マレク・ヤノフスキ
トリスタン(テノール):スチュアート・スケルトン
マルケ王(バス):フランツ=ヨゼフ・ゼーリヒ
イゾルデ(ソプラノ):ビルギッテ・クリステンセン
クルヴェナール(バリトン):マルクス・アイヒェ
メロート(バリトン):甲斐栄次郎
ブランゲーネ(メゾ・ソプラノ):ルクサンドラ・ドノーセ
牧童(テノール):大槻孝志
舵取り(バリトン):高橋洋介
若い水夫の声(テノール):金山京介
管弦楽:NHK交響楽団(ゲストコンサートマスター:ベンジャミン・ボウマン)
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:エベルハルト・フリードリヒ、西口彰浩
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン
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津留崎直紀 新境地のバッハ無伴奏全曲 オペラシティリサイタルホール [コンサート]

 バッハ無伴奏チェロ組曲の全曲演奏をこれまで聴いたのは、新しい順に、上森祥平、ヨーヨーマ、クニャーゼフ、藤原真理に次いで5人目だが、5番で調弦を原曲通りAからGに変え、6番は新作の5弦のチェロで、全曲暗譜で弾くという挑戦に立ち会うのは初めてのこと。ボーイングは、アンナ・マグダレーナの販を基本にし、まさに新境地、人生の集大成と言える決然とした演奏会だった。
 ガット弦を張りバロック弓も2種類使い、調弦は415Hzで、できる限り本当の音と奏法を追求したのではないだろうか。
 実際初めは音が小さい印象だったが、耳が慣れてくると、音が綺麗で和音を感じさせる響きが素晴らしい。バッハの無伴奏を聴いていて、和音の美しさを感じる瞬間は最高だ。
 津留崎先生はリヨン国立歌劇場の主席を32年務め、自主退職されたとのことだが、余力を残して、10年以上経ってバッハ全曲弾くという情熱が凄い。自然体で、優しい音色は、お人柄だろう。ブログでご自身の考えを表明しつつ、演奏会で実践するという、誇り高い本気のチェリストだと敬服する。
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ジャン=ギアン・ケラス無伴奏リサイタル 浜離宮ホール [コンサート]

 大人気ケラスのライブはこれまであまり聞いていなかったが、この日は、ただ、座っているだけで、悲しい心を温めてくれるような、優しさを分けてもらった演奏会だった。特にバッハに心惹かれた。最近YouTubeでバッハの講義を見て、いいなと思っていた。作品の原点回帰を超え、独自の自由な世界観と優しい表現は、きっと飾らない温かいお人柄なのではないかと思う。
 一番の冒頭から、音の演出が素晴らしく、どこか石造りの大きな教会の中で聞いているような透明な響きが美しく、プレリュードの弾き始めで引き込まれた。開放弦をふんだんに使い、ボーイングはスラーが多く、響きを追求した効果的奏法というか、組曲全体が軽やかで、装飾音を入れて楽しませてくれる、コンサートへいざなう理想的な一曲目だった。
 最後の5番は、昨今はオリジナル通りA線をGに調弦して演奏される。C-Mollの暗さ、乗り越えて行かねばならない、辛さ切なさが良く伝わってきた。
 アンコールの6番プレリュードは、生き生きと、楽に弾いてくれて、昇天するイメージ通り、幸福な気持ちで家路に向かわせてくれた。
 若く見えるが、現在57歳、音楽が人を救う事を承知しているなあと感じる。
 たまたま、プログラム2曲目が、岡本さんも同じで、ブリテンの1番だった。ケラスも若い頃からのレパートリーのようだが、今回は、意図的なのかもしれないが、音が今一つはっきりせず、3日前の岡本さんの正確さと音の粒立ち、音色がいかに素晴らしいかったか、先日聞いた友人も同感とのことだった。
 後半は、冒頭から力強く、文楽もケラスのレパートリーで、とても良い演奏だった。リゲティは、テクニック満載で、熱演してくれて、チェロって、こういう音だったと、時々入る移弦の擦れる音を含め、チェロらしい音を満喫した。それでも、弓の毛は一本も切らず、あえて、バッハの奏法の違いを示してくれたと思う。
 アンコールのデュポールの7番では、バロックのテクニックを見せてくれて、一晩で、お客さんのために色々な世界を見せてくれた。優しさに溢れ、使命感をもって演奏、指導している印象を受け、聞いていて気持ちが和んだ。
Program
・J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV1007
・ブリテン:無伴奏チェロ組曲第1番 Op.72
---------------』
・黛 敏郎:無伴奏チェロのための「BUNRAKU」
・リゲティ:無伴奏チェロ・ソナタ
・J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第5番 ハ短調 BWV1011
 
◆ アンコール
・デュポール:エチュード第7番
・J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第6番 BWV1012 より「プレリュード」
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岡本侑也無伴奏Ⅱ チェロリサイタル トッパンホール [コンサート]

 スケールの大きいチェリストになったなぁと、メジャーリーグの大谷翔平を見る時の眼差しと共通する、誇らしい気持ちだった。
 もう3年前になるが、トッパンホールでの無伴奏リサイタルが、とても素晴らしいものだった。さらにあれから研鑽をつみ、クリスチャンツィメルマンとの海外ツアーに二度誘われ、ヨーロッパでも知名度が上がり、今年1月には、Quatuor Ébène の正式チェリストとなった。
 2月末に曲目を変更し、ペンデレツキ「チェロのための組曲」から、イザイのソナタと文楽になった。当日になると曲順が、下の様になり、むしろ冒頭に美しいイザイが入って、演奏会の流れとしては、良かったと思う。
 この日の印象は、いつもの、正確、繊細の上にスケールが大きく、激しく弾いても、弓の毛は一本も切らなかった。移弦や弾き始めの雑音が一切ないので、目をつぶって聴くと、4弦チェロの音なのか、人の声なのか分からなく滑らかな響きだった。
 後半一曲目のペンデレツキが、最も激しい奏法で、クライマックスで、C線が切れ、一度舞台袖に戻って、初めから弾き直した。この日はカメラが入っていたので、そうなったのかもしれない。
 全ての曲の隅々まで、全ての音が生まれ消えていく時間が愛おしくなる。実は、文楽は何度も演奏されており、プログラムに入れたことに、ちょっとした懸念があったのだが、とんでもなく素晴らしく、きっと作曲家の思いを遥かに超えた名演奏で、暫しお別れの日本への、置き土産ような最高の演奏会を締め括った。
 今回は珍しく楽譜を置いていたが、暗譜の時と何ら変わらず、楽譜は音楽へ昇華され、世界トップレベルの芸術表現を間近で聞かせてもらったと皆驚いたと思う。
 楽器は、今回も本来の自分の物ではなかったが、とてもよく鳴っていて、全く雑音を出さず、どんな奏法も完璧な弓使いだった。弓の毛が切れないと言うのは、無理なく楽器と一体になっているからだろう。
 最後本人の挨拶で、翌朝カルテットの為コペンハーゲンに飛ぶので、今日はアンコールはありませんと、突然変わってしまった自分の環境を、素直に受け入れている風だった。
 ソリストとして大きな飛躍を遂げ、29歳になった岡本さんの就職先とも言えるQuatuor Ébène。この素晴らしい岡本さんを、エベーヌも良く見つけたと思う。人柄は控えめなのに、これほど表現力と技術があり、スケールが大きいチェリストを、拍手一杯で、世界に送り出したい。
 今後は、欧米に留まらずグローバルな旅で活躍するわけだが、カルテットはメンバー交代がつきもの。もし、ポジティブでもネガティブでも、理由ができたら、無理せず、次の道に進んでほしい。まだ人生は長いのだから。

イザイ:無伴奏チェロ・ソナタ Op.28
ブリテン:無伴奏チェロ組曲第1番 Op.72
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ペンデレツキ:ジークフリート・パルムのためのカプリッチョ
細川俊夫:小さな歌
ユン・イサン:グリッセ
尾高惇忠:独奏チェロのための《瞑想》
黛 敏郎:BUNRAKU
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