SSブログ

岡本侑也&北村朋幹 デュオリサイタル JMSアステールプラザ [コンサート]

 全国旅行支援のおかげで、広島まで岡本さんのチェロを聞きに来ることができた。
 JMSアステールプラザでは作曲家細川俊夫氏を音楽監督として、Hirosima Happy New Ear(耳)と銘打ち、馴染みの薄い現代音楽に出会う機会を提供している。細川氏の作品も地元では存分に上演できる。この会場は立派なオーケストラ練習場で、音響も良い。広島交響楽団の公演スケジュールを見ると、広島にはたくさんの音楽ホールがあるようだ。とても優雅な文化都市という印象を受けた。
 細川先生のお話がストレートに胸に響く。古楽から現代の最先端の音楽までを「自分たちの音楽」として表現しようとする若者たちが台頭してきていると仰るのは、クラシック音楽という言葉のジャンルで不思議な現象ではないだろうか。確かに岡本さんの現代曲はとても素晴らしい。共演者の北村さんも、そう仰った。前例のないものを発見する喜びがあるのではないだろうかと想像している。
 アフタートークで細川先生が仰ったのは、グリッセは初演から聞いているが、岡本さんの演奏は、これまでとは全く違う新しさがあったと。ご自身の作品リートⅢについては、元はフルートとピアノのための曲だったが、Vla今井信子さんや、イッサーリスにはチェロコンチェルオに編曲を頼まれたそうだ。そして今回、岡本さんには自分では気付かなかった、深い表現を探してくれて感謝していると仰った。そうなのかと腑に落ちた。私はこれまで、新作の作曲者にとって、演奏者の音楽は満足できるものなのか、十分思いが表現されているのだろうかと常に気になっていた。新しい作品は演奏者によって、全く印象が変わってしまうからだ。でも先生の言葉を聞き、やはり岡本さんが新作の演奏を頼まれる理由が、作曲家すらわからない、深い表現力、インスピレーション故だと確信できた。本当にNew Earは現代から未来へ私たちが養っていきたい力だと思う。
 選曲について、ベートーヴェンの4、5番はセットであり、ベートヴェンの時代としてはロマン派への懸け橋となった作品なので、これを二人の奏者で相談して決めたそうだ。確かに4番は、ただベートーヴェンのソナタかと思って初めて聞くと大変な消化不良になると思う。混沌として、どこへ向かうのか訳が分からなくなる。自分が多少西洋音楽のことを理解してきたからこそ、ベートーヴェンの苦悩に共感できるが、若い頃は聴いていて動揺してしてしまう作品だった。
 岡本さんは、苦労話として、グリッセの3楽章ではギターピックのようなものを使い、チェロの4弦をギターのように上下からアルペジオを弾くのが難しく、まず自分の指でなくピックを使うと音が際立ってしまい、指で表現するような音を出すこと自体が難しかった話された。さらにチェロの4弦をギターのように上下にじゃかじゃか、響かせ、そのように聞こえることは大変だったと。
 音楽の好みは十人十色でよいと思う。それでないと演奏家が失業してしまう。でも岡本さんのように、ここまで純粋に音楽を追求、探求できる才能は神がかっている感じがする。ピックの話も、音だけ聞いているとあまりに美しく、裏の苦労、至難の業だとは気づかない。岡本さんが苦しそうな表情で弾くのを見たことがない。ミューズに守られているのだろうか。
 昼間、厳島神社で感じた厳かな空気を岡本さんの演奏からも感じとれる。やはり濁りのない音を地上で聞く機会がめったにないせいかもしれない。
 武満徹が日本人作曲家としての道を拓いてくれ、日本の音楽を西洋音楽の形式に当てはめる必要はないという考えだったと細川先生が仰っていた。日本の緩やかに移り変わる自然の良さようなものを先生も表現されている気がする。
 ドイツでよく終演後のアフタートークがあるが、さすがベルリンの細川先生、地元ならではのゆったりと共有できる時間だった。平日の夜東京ではありえない。白熱したトークを最後まで聞きたかったが、私は終バスの関係で、途中で失礼した。

岡本侑也(チェロ)
北村朋幹(ピアノ)
音楽監督・お話/細川俊夫
L.V.ベートーヴェン チェロ・ソナタ第4番 ハ長調 Op.102-1
ユン・イサン Glissées(1970)
J.S.バッハ ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ第3番 ト短調 BWV1029
武満 徹 オリオン
細川俊夫 LiedⅢ
L.V.ベートーヴェン チェロ・ソナタ第5番 ニ長調 Op.102-2

JMSアステールプラザ(公式Twitterより借用)
3DF3242E-43B5-4EEC-8EE8-4F63F70FE756.jpeg
1C4577F8-3E4B-4DDB-91C2-2B2D3D89D27F.jpeg
C9218E23-4B83-4FC9-9711-C09D6E210D2E.jpeg
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。