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こうもり 新国立劇場 [オペラ(国内)]

 とても真面目で一生懸命なこうもりを観てしまった。このプロダクションはノヴォラツキー氏の置き土産で、2006年初演時から、日本語を取り込んだ仕様になっている。コロナ禍で変わったところといえば、一幕で投獄前のアルフレードとロザリンデが偽装夫婦の別れのキスをする場面。以前は名残を惜しむ長いキスで笑いを誘ったが、今回はロザリンデが投げキスするようにしてアルフレードの頭を撫でる一瞬の挨拶だったように見えた。2幕の舞踏会場面は当然歌手同士の距離をとり、ペアのダンスはダンサーだけが踊った。
 歌手陣は全員が最上級だった。アデーレ役は少し未熟さも残るような若い感じの歌手に歌わさせるのかとずっと思っていたが、今日のマリア・ナザロワさんは、主役として、最高のコロラトゥーラを聴かせてくれた。今年のアイゼンシュタインはバイロイトのマイスタージンガーでマイスター、コートナー役を歌っている。演技も上手で、酔っ払いながらダンサーとともに鮮やかにステップを踏み、千鳥足での演技も真面目で素晴らしい。この役は、お酒をひっかけて演技する場合もあると聞いたことがあるが、そういう曖昧さは無く、きっちり演じたからこそ、今の時期、素晴らしいと感じたのだと思う。オフロフスキー役のアイグル・アクメチーナは声量も声の勢いも理想的で適役、わざと外国語っぽいドイツ語がとても良かった。アルフレードはテノールの名曲を一節ずつ監獄の中で歌ってくれるが、また上手で、一切気を抜いていない。村上さんにはちょうど一年前第九のテノールを歌っていただいたのが、霧の向こうのずっと昔のことのように思える。
 オケは2年前は東京交響楽団弦5.5型で今回は4.5型。管楽器の人数は変わらず、結構金管が目立って聞こえた。
指揮:クリストファー・フランクリン
演出:ハインツ・ツェドニク
振付:マリア・ルイーズ・ヤスカ
再演演出:澤田康子
合唱指揮 :三澤洋史
合唱:新国立劇場合唱団
バレエ:東京シティバレエ団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
出演:
ガブリエル・フォン・アイゼンシュタイン・・・ダニエル・シュムッツハルト
ロザリンデ・・・アストリッド・ケスラー
フランク・・・ピョートル・ミチンスキー
オルロフスキー公爵・・・アイグル・アクメチーナ
アルフレード・・・ 村上公太
ファルケ博士・・・ルートヴィヒ・ミッテルハマー
アデーレ・・・ マリア・ナザロワ
ブリント博士・・・大久保光哉
フロッシュ・・・ ペーター・ゲスナー
イーダ・・・平井香織
※フロッシュ役に出演予定のクルト・リドルは、入国制限(入国後14 日間の待機義務)のためスケジュールが合わず、来日が不可能となり、代わりにペーター・ゲスナーが出演。
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 今まで、こうもりを一つのオペレッタの舞台として見て、耳慣れた音楽を楽しんでいたが、今回、あまりに真面目に喜劇を演じてくれたせいか、こちらの人生経験のせいか、台本どおり、嫌なことを全て忘れて一時楽しみに没頭してみたいと実感した。演奏側でなく、観客側としても、一年間生でオペラを楽しめなかったことで、現実を忘れ舞台や音楽に没頭する体験を忘れてしてまったのだと気づいた。象徴的なのは、別れを惜しんでいるうちに、ウキウキしてきてしまうリズム感や、含蓄のある歌詞、変えることができないを忘れてしまえる人は幸せだというのも、普段は自分はそんな気楽な方の仲間だと受け入れていただけだったが、こんな私でさえウキウキもできず、何事にも気楽になれないこの一年に気づくと、しばし作品の中に没頭でき、心から楽しかったと感じた。
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