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オペラ字幕のありかたを考える( シンポジウム) [オペラ(国内)]

 久しぶりに昭和音大のシンポジウムを聞きに行った。オペラ字幕のありかたを考えるというテーマは興味深く、1500本以上の映画字幕翻訳を手がけている戸田奈津子さんの存在感が圧倒的だった。
 
 映画字幕作りのテクニックとして、普通一秒に3文字しか字幕を読めないとのことで、そのテンポを乱さないよう、場面の秒数で訳語のセリフを決めるとのことだ。名意訳として、「もう行ってしまったかと思ったわ」という直訳を「あらまだいたの」と短縮字幕にしたと紹介されたが、戸田さんにとっては当たり前の作業のようだった。
 
 国内オペラ上演に初めて字幕が付いたのは1986年、当時はスライドをつくり、プロジェクターを使用していた。しかしプロジェクターには80枚弱のスライドしかセットできず、2台の器材を使用したり、字幕のコマ数にも制限があった。今日の電光掲示板(LED)は縦16文字x2行で、文字はパソコン入力なので、変更もしやすい。でもやはり問題はあり、文章が完結せず、主語、目的語の関係が分からなかったり、重唱では誰の歌詞だかわからなかったりする。
 
 舞台の両サイド、上方など、どの位置に字幕を出しても、どうしても視線が舞台上からそれてしまい、観客がオペラに集中できないことは、歌っている歌手も感じるそうだ。オペラ字幕専門の増田さんのお話では、海外からの引越し公演で初めて字幕をつけたのは1988年METの時で、レヴァインは同じ理由で嫌がったそうだ。しかしリハで字幕を読んで笑う観客を見て納得し、METでも座席裏に字幕画面を取り付けることにしたという。その後ウィーンもスカラ座も導入した。

 作品の読み替えが多い昨今、演出を見ないうちにオペラ字幕を作ることは厄介だそうだ。キャラクターにより言葉使いを変えたりするので、早く舞台の資料が欲しいと。また、アドリヴの多いオペレッタでは、楽屋まで行って、歌手に直接質問したこともあると苦労談があった。

 私個人の経験だとドイツでドイツ語のオペラにドイツ語の字幕がつくようになったのは、ここ5年くらいのような感じがする。バイロイト以外では、新たな客層を開拓するためにも字幕は必要になってきているのではないだろうか。またどこの都市だったか、二人の掛け合いで誰の歌詞だか区別できるよう、二色の字幕を見たことがある。

 戸田さんからも、ホログラムを使って歌手の頭上に歌詞を映し出したり、キャラクターによる字幕の色分けはできないものかと、ご指摘があった。するとどうやら、4月N響のローエングリンでは字幕が色分けされる模様だ。

 戸田さんから映画字幕の今後の展望について、海外では字幕でなく吹き替えが主流で、日本でも若者が字を読めないために今後は字幕が減る傾向にあるとのこと。またハリウッドからはフィルム配給ではなく電波で配信されるようになる(なった?)ため、初めから何十ヶ国語も入っているらしい。字幕に著作権が無いというのは意外だった。

 本題のオペラ字幕については、まだまだ発展途上だとあらためて感じた。映画と違い、オペラでは言葉のニュアンスまで原文に忠実にと努めていて、極端な表現をすると研究者から文句が出るらしい。音楽の上に乗った言葉だけに、扱いが難しい。軽快なイタオペはともかく、ワーグナーなら、むしろ初めて見る人のためには、より詳しい字幕が必要なくらいだ。タイでワルキューレを見たときには、あらすじまでがスクリーンに投影されていたっけ。

パネリスト : 戸田奈津子 映画字幕翻訳者 、増田恵子 オペラ字幕制作者・オペラ研究家 、松本重孝 オペラ演出家、モデレーター:広渡勲 昭和音楽大学教授 、石田麻子 昭和音楽大学准教授 (G)


 デュイスブルクで「ラインの黄金」を見た時、平土間2列目だったが、隣席の青年(当然ドイツ人)が舞台を全く見ずに、ずっと頭上を見上げたままなのを不審に思っていたが、ふと気がつくと舞台の上に字幕が出ており、それを必死に追っていたのであった。(B)
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