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藤村実穂子メゾソプラノ・リサイタル(所沢ミューズ・マーキーホール)  [コンサート]

 ソロリサイタルでの藤村さんは、先日のペレーニの時のような、人間としての気配を消した、音楽の美しさがあるように感じた。感情表現が必要なワーグナー歌手として、フリッカ、クンドリー、ブランゲーネ、ヴァルトラウネを見、聴く機会があったが、ミスに出合ったことがない。体調が管理が勝負の歌手にとって、いつも完璧に歌い演じるのは大変なことだ。
 後で今回のインタヴュー記事を読み、ストイックな印象を受けた理由がよくわかった。「神様からの宿題」という言葉を使っていたが、神様に選ばれた人間として声を大切に守り、多大な苦労や自己愛を乗り越え、歌以外の欲望を捨て去った無の境地みたいな謙虚さが、藤村さんの音楽の魅力だと思う。
 ワーグナーの張った声は聞き慣れているが、綺麗なメロディーをさらっと歌うときは、愛や悲しみの詩に関わらず、まるで神の僕として声を使わせてもらうといった、神聖な空気が漂う。R.シュトラウスは、聞き慣れていないせいか、和音が複雑すぎて、声がうもれてしまったように感じた。楽器と同じように、歌いやすい調整などあるのだろうか。マーラーの伸びやかな、透明な声もまた素晴らしかった。
 オペラでは、役は同じでも演出によって、キャラクターが変わる場合がある。世界の巨匠、ヴァルトラウト・マイヤーの演技は女優以上だが、献身的なクンドリーなら藤村さんの方が上手かもしれない。お客さんを失望させないように、あくまで声を守るストイックな生活は、神様に声を捧げた人間の音楽の原点なのかもしれない。
 ピアニスト、ロジヤー・ヴィニョールズ氏も、音の一粒一粒に、ため息のような、涙のような、えもいわれぬ魂を込め、作品が演奏されるその時空を支配している魔術師のような、素晴らしいパートナーだった。(G)
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プログラム
○シューベルト
泉に寄せて /春に /ギリシャの神々 /泉のほとりの若者 /春の想い 
○ワーグナー  ヴェーゼンドンク歌曲集
○R.シュトラウス 
私の想いの全て /君は心の冠 /ダリア /私の心は黙り、冷たい /二人の秘密をなぜ隠す
○マーラー  リュっケルトの詩による5つの歌曲
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