SSブログ

2014都民芸術フェスティバル室内楽『ピアノ三重奏の夕べ』 [コンサート]

 室内楽を聴くとき、そのメンバーがいわゆる常設メンバーか、一夜のために集まったのかで、音楽会の雰囲気が違う気がする。トリオはまた特別で、3人のソリストの個性とアンサンブルの狭間で、冷静に人に寄り添う難しさがあると思う。
 この夜、純粋に音樂という接点だけで時間を共有する演奏は、お互いソリストでありながら、一瞬たりともトリオであることを見失わず、さすが調和のとれた感性をお持ちの方々だと思う。多分3人は冷静に五感をフル活用して、イメージ通りの音樂をつくっているのだと感じた。年齢の差は問題ではないのか。暖かく、大人っぽく、やはり女性的な優しさを感じる。通路より後ろの席では、目を閉じて聴きたくなる全体の美しさ故か、多くの方の眠りを誘ったようだった。
 19歳の男子、チェロの岡本さんも、お二人の大先輩にピタっと合わせ、豊かなハーモニーと躍動感で音樂を支え、同じテンションで、歌心満載のチェロを聞かせてくれた。破綻の限界に挑むスリルある室内楽がある一方で、こういう優しい音樂との出会も嬉しいものだ。例えるなら、どこか自然の中で、ぬるめの鉱泉に浸って、骨まで温まり、ほのぼのとした暖かさがずっと持続するような心地よさだろうか。(G)

曲目:ベートーヴェン/ピアノ三重奏曲第4番 変ロ長調 作品11「街の歌」
   スーク/ピアノ三重奏曲 ハ短調 作品2
   ベートーヴェン/ピアノ三重奏曲第7番 変ロ長調 作品97「大公」

ピアノ:田部京子
ヴァイオリン:大谷康子
チェロ:岡本侑也
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

モルゴーア・クァルテット第39回定期演奏会 [コンサート]

 最近、雑音の無い弦楽器の音づくりを目指すことの大切さを体感する機会があったが、モルゴーア・クァルテットのクリアな音の美しさは、摩擦音が無いからなのかと気づいた。雑音が無いと、一つの音符に対して音が出ている時間が長いので、音も連続して聞こえる。またこの先生方は当然すごく耳が良いので、一人目の作った音を受け、次々4人で音を回している感じがする。人の音や気配にとても敏感に反応するので、会話を聞いているようだ。技術も楽器も素晴らしく、どの曲も、透明感のある響きだった。
 シューマンのカルテットはとても複雑で、難しそうだったが、3楽章の終わりの方で、二人のヴァイオリンが美しく三度でハモッたとき、その場に光が差したような、特別な空間に感じられた。耳障りな雑音は、気づけばテレビ放送などでもわかるものだ。今まで、綺麗な音に聞こえた演奏は、自分に関係ない、特別な世界の音だと思っていたのは、いわゆる不協和音が美しく響き合う驚きを初めて体験したのが、ベルリンだったからなのか。日本の名高いカルテットの音色を色々聴いてみたくなった。(G)
プログラム
クルト・ヴァイル:弦楽四重奏曲 op.8
ミキス・テオドラス:弦楽四重奏曲第4番「MASA」
林光:弦楽四重奏曲「レゲンデ」
シューマン:弦楽四重奏曲第2番 ヘ長調 op.41-2
荒井英治(Vn)、戸澤哲夫(Vn)、小野富士(Va)、藤森亮一(Vc)
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

《ラインの黄金》の総譜解題 [オペラ(国内)]

 ワーグナー生誕200年記念懸賞論文で日本ワーグナー協会賞を受賞なさった岡田安樹浩さんが、例会で、ラインの黄金の序奏部についてお話しされた。
 どのように作曲されたかというのは、とても興味深いが、自らそれを探求することはできないので、学者の先生方が、音樂を愛しつつ、研究成果をお話して下さることはとても有難い。手をかえ品をかえ、繰り返し、知ればしるほど、今日では当たり前の音の感覚が、ワーグナーによって、開拓されたことに心動かされる。
 演奏する立場で一番身近に感じた話題は、序奏がEs-durの和音だけで構成されていることを、ワーグナーが豪語したという話。和声進行が無く、音の厚みを増すことを主眼に高揚感を表すのは、当時画期的だったのだ。また、楽器を分けて、主要旋律を吹かせたこと、混沌とした音を楽器で表わそうとしたことなど、奏者として音の渦の中にいるとき、ものすごくよくわかる。
 序奏部のチェロの分散和音は画一的でなく、微妙に音が変わる。なぜなのだろうと思っていたが、それこそが新しさの一端なのか。複雑な音の中で、自分の役割がとても孤独で、自分を見失いそうになる時もあるが、それも音樂が複雑に構成されている新しさなのか。きっとプロ奏者でもスリリングな体験があると思う。
 今日のお話で、少し総譜が見えたようで、パート譜で体感するときの心の不協和を解決してもらえ、体の中がすっとした気がする。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽