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第80回日本音楽コンクール チェロ部門本選 [コンサート]

 本選課題曲はハイドンD-durコンチェルト。コンクールは自分を評価してもらうために出場するものだから、奏者の緊張感は演奏会とは随分違うのが普通だろう。でも、優勝した高2の岡本さんには、全く緊張している様子がなく、のびのびと、心からオケとの共演を楽しんでいるように映った。奏者のかもし出す幸福感が聴衆をも幸せにしてくれる、素晴らしい演奏だった。ともすると演奏家の個性が演奏家の事情になったりすることもあるが、岡本さんは、聴く側に、演奏にかかわる裏の事情を全く感じさせない。天性の音楽家なんだとあらためて感じた。とても自然に流れる生き生きした音楽、自然に聴こえる心地よさはめったに味わえるものではない。ものすごいテクニックがあってこその表現なのだ。私の周囲にいたお客さんからも断トツだと絶賛している声が聞こえた。
 昨年夏、ミュンヘンの国際コンクールでは、準決勝が、指揮者なしのD-dur、決勝が大オーケストラでドボコンだった。大人が音楽家としてのより高い評価を得るために受けるコンクールでは、主催者側の理想像もあるのかなとちょっと感じたが、若者の登竜門としての日本の音コンは純粋に音楽そのものを評価してくれて、やり甲斐のあるコンクールではないかと感じた。
 昔ドイツのレーゲンスブルクで8歳の侑也少年が弾くバッハを初めて聴き、彼の音楽の虜となった時の感動と同じような思いを、客席の多くの方も感じて、聴衆票を入れてくれたのだろうなと思うと、より広い世界へ羽ばたく日が待ち遠しい。優勝した岡本さんに、心からおめでとう、そしてすてきな音楽を、有難うと伝えたい。(G)

音コンチェロ部門放送予定
11/24(木)19:30~21:10 NHK FM(ラジオ)
12/ 8(木)6:00~6:55 NHK BSプレミアム
12/18(日)15:00~17:00 日本音楽コンクール・ドキュメント(Eテレ)
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新国立劇場ーサロメ(楽日) [オペラ(国内)]

 2000年の初演以来、4回目のレパートリー公演で、すっかり慣れたとはいえ、何度観ても恐怖で胸が苦しくなるのは、作品の凄さだろう。今回の歌手陣はサバサバした印象だった。4階席だと1階席で聴くほど、歌手の声量の差がわからない。今だに謎のPAのおかげかもしれない。それでも最後サロメは少し聞き取りにくかった。ヘロディアス役のハンナ・シュヴァルツは、新国立ではエルダ以来、日本に来てくれたことに感謝。今回指揮者と、フランツが代役を立てることになったが、結果オーライだったと思う。ヨハナーン役の、ジョン・ヴェーグナーは2008年の時は、明るい声だと感じたが、今回も凄みというよりは、穏やかなヨハナーンだったと思う。フランツ代役のヘロデ、マックーアリスターは、軽くて明快、フランツも軽めなので、役の正統なキャラとは違うかもしれないが、さわやか系で嫌いではないなと思った。この10年、海外で観たサロメの舞台を含め、新国立の舞台は豪華で好きだ。今や、サロメでさえ読み替えさえる時代、割と最近では厨房が舞台のケルンのサロメは、どんな評価を受けているのか、7つノヴェールの踊りが、7枚のナプキンになったときは驚いた。
 4階席に届くバランス良いサロメは、新国立のレパートリーに定着したという安定感が感じられ、次の再演への自信はすなわち、新国立劇場の成長でもあり、会員として嬉しいものだ。(G)

新国立劇場-イル・トロヴァトーレ(楽日) [オペラ(国内)]

 とっても久しぶりにヴェルディを聴いた(ような気がした)。半年間、ワーグナーのことばかり考えていたというわけでもないが、直前のアマオケの本番もドイツプロだったし、ドイツ音楽にどっぷり浸っていたのだろう。それだけに、トロヴァトーレは新鮮だった。頭の中を明るい春の風がビュンと短時間に吹き抜けていったように、頭を空っぽにしてくれて新たなスペースができた。
 演出家が「死の象徴」役を設定したことで、本来支離滅裂な筋書きに振り回されることなく、歌と音楽を楽しむことができた。どの作品でも一番感じることがだ、ヴェルディのオペラは残酷な場面ほど、音楽が本当に美しい。真ん中に空洞があるような音の印象が軽やかさに通じ、後半、歌もオケも一層一体感が高まったようで、久々にイタオペの躍動感を満喫した。4幕の3重唱も良かった。レオノーラが毒をあおった後、死の直前のコロラトゥーラの軽やかさもヴェルディならではのもの、イタオペが人生の一夜の楽しみとして必要なことを素直に実感した。(G)
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「マエストロ ヤノフスキに訊く」   [その他]

 ベルリン放送交響楽団の芸術監督・主席指揮者であるマレク・ヤノフスキ氏の講演があった。ベルリンで昨年から年3演目ずつ、ワーグナーのオペラ10作品(オランダ人以降)をコンサート形式で上演するスケジュールが進行中で、順次ライヴCDも出る。2012~13年がリングだ。氏が話されたのは、昨今ワーグナーのオペラは演出過多で、舞台に気をとられて、目で聴くことを余儀なくされ、音楽に集中できないとのこと。思考プロセスが目に左右されるのではなく、耳で集中して聴いてもらいたい。歌と音楽をよく聴けば、頭の中に自ずと場面浮かぶだろうと。
 指揮者は長い時間をかけて成熟するもので、見栄えのする若い指揮者が、経験を積まず急にオペラを指揮するのは難しい。音楽の解釈こそが指揮者の仕事であり、出てきた音には全責任を負うべきだ。こうして費やしてきた時間こそが指揮者としての自信につながると、とても真面目に丁寧にお話して下さった。音楽は動きの芸術であり、止まってはならない。自分を客観的に見つめながら指揮するという謙虚さを持ち、整然と音をコントロールする真摯な取り組みようにとても感心した。
 東京の春音楽祭で2014年からリングを一作づつ振る予定だと明かされた。日本で本格的なリングが聴けるのだ。待ち遠しい。(G)

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大倉山記念館 [美術・博物館]

 吉川桃生先生が指導されている木月会という書道展を見に、大倉山記念館へ行った。大倉山公園にひっそりたたずむ古い洋館の周りでは、木立の中を散歩する人、イーゼルを立てて絵を描く人、ぎんなんを拾う人など、静かな時間を楽しんでいる人たちがいた。
 初めて見る先生の書は、正統なかなから、書とデザインの融合した作品まで、どれも香るような美しさがある。基本指導は、古典を順番に先生のお手本で習うこと。奥の細道、方丈記は入門編とのことだが、練習したものは全て和綴じにして、表紙をつける。こうして自分だけの書の歴史となる。平行して創作も習う。好きな詩歌、生活の中の日記、現代詩、新聞に連載された短歌評、漢詩など題材は自由だ。様々な字体や構成、色彩なども、書く題材の内容にあったものを選び、先生が一人一人お手本を書いて下さる。大変な労力だ。目指すところは、題材となる文字(作品)のもつ意味を、書を見て感じることができること、書をやらない人でも、見て楽しめることだそうだが、まさにそういう展覧会だ。
 百人一首を書く、かるたの紙や屏風など、書く土台も手作りする方や、色紙を入れる箱を布で飾ったり、紙の色を染めたり、色々な技術を持った方がいる。お婆さまとお孫さんの合作も何点かあり、先生が提案するアイデアは尽きることがない。展示の仕方もとても美しく、隅々まで心がこもっており、時間を忘れて見入ってしまう。
 先生の作品に接すると、題材となる物や事象に宿っている魂を呼び起こし、書体、色彩、紙質、デザインなどを総合して、生き生きした作品イメージが完成し、語りかけてくるような生命の躍動感を感じる。根底には博愛の崇高な精神も感じる。いつも愛情をもった熱い眼差しで事象を観察されているようで、ご自身で歌も詠まれる。
 最近では、美術雑誌に載った「華」という正方形の書を、ニューヨークではアートポスター展に、ロンドンではシルクに転写する作品として、そして9月にはパリでワインラベル展に出品された。そして、この度、ナポレオンが好んだ超高級ワインとして知られる、ジュヴレ・シャンベルタンのエチケットになった。エチケットになった芸術家はピカソ以来二人目とのこと。日本の書の心をデザインを通してグローバルに表現し、世界各国の人の心に届けることができる素晴らしいインスピレーションと想像を絶する集中力、作品は作者自身なのだと、作曲家と演奏家の関係にも似ていると感じた。(G)
  日仏芸術祭2011 東日本大地震チャリティーワインラベル展で展示される。(11/11~13横浜赤レンガ倉庫一号館2F)
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彩弦楽四重奏団第11回演奏会 プラザノース [コンサート]

 今回のメインはベートーヴェン後期の大曲13番、6楽章のフーガ(15分)を含め演奏時間は50分。このフーガはかなり強烈で、聴いていて私は畏れを感じる。作曲当時、難解だと言われ、6楽章は軽快なものに差し替えられたそうだ。5楽章は、ベートーヴェン自身が涙が溢れると語ったそうで、この上なく美しく、まさに天上の音楽。どの楽章も、実験的・挑戦的な印象を受ける。ベートヴェンが100年後の人のために作品を書いたという解説に納得した。 
 彩弦楽四重奏団の演奏は、ハイドンは軽やかに、ベートーヴェンは重厚に、全く残響のない厳しい会場であっても、色々な表情が真直ぐに聴き手に届く。常連客の間で繰り言のように、残響があれば・・と言うのだが、そんなことを物ともせず勝負する凄い気迫に、身が引き締まる思いだ。(G)
ハイドン:弦楽四重奏曲 ニ長調 op.76-5 「ラルゴ」
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第13番 変ロ長調 大フーガつき
第1楽章 Adagio, ma non troppo - Allegro
第2楽章 Presto
第3楽章 Andante con moto, ma non troppo. Poco scherzoso
第4楽章 Alla danza tedesca. Allegro assai
第5楽章 Cavatina. Adagio molto espressivo
第6楽章 Große Fuge (Grande Fuga Op.133): Ouverture. Allegro — Meno mosso e moderato — Allegetto — Fuga. [Allegro] — Meno mosso e moderato — Allegro molto e con brio — Allegro
彩弦楽四重奏団(林智之,中島ゆみ子Vn.臼木麻弥,Va.田澤俊一,Vc.)
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