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岡本侑也 ―無伴奏チェロリサイタル トッパンホール [コンサート]

 弾きたくて、この日が待ち遠しかったように音楽に没入する、この心と体と音楽の一体感は岡本さん独自の世界だ。一週間前は高崎でホールの響きを堪能したが、今回は間近な距離でダイレクトにチェロの音を聴いた。超絶技巧の持ち主が、良い楽器を得て、何の迷いもなく、思い通りの音を奏で、楽しみ、聴衆を喜ばせてくれる。
 岡本さんのカサドは、以前から聴いていたが、瞬発力に弾力というか躍動感が加味され、音楽のスケールが一回りも二回りも大きくなったように思う。スリムな体から湧き上がるエネルギーが凄い。
 藤倉作品はフラジオレットが美しく、海の中の泡のような、あるいは宇宙空間を漂うような、不思議なイメージだ。現代曲の譜面を音楽として膨らませ、音を再現するのは、表現者の創造性と確かな技術だ。アルペジオとロングトーンを同時に弾く移弦テクニックも、楽々弾いているように見えて、これは超難曲だと思う。レパートリーに加えてほしい美しい日本の作品だと思う。
 高崎と同じ前半のプログラムは、やはり集中力が凄い。小さなつまずきも気づかせない、クリエイティブな無伴奏。高崎でも感じたことだが、ある意味、誰にも邪魔されず、深い思いを語れる無伴奏は、表現者としての岡本さんの理想像に思える。無伴奏演奏会が、中学生の初コンサート以来とは意外だった。
 トッパンホールプレス2021.3月号の特別座談会(三浦一馬、山根一仁、岡本侑也)によると、岡本さん、osmは、終始音楽に集中していないと音楽が止まる不安があり、譜めくりの人を頼んだり、iPadのページをめくるペダルを踏むこともやめて、暗譜したというような話だった。それほど音楽の流れを大切にしているということだろう。岡本さんは、今回も全曲暗譜だった。
 今はミュンヘンで室内楽を勉強中だが、まるで生きているような音の動きは、将来どんな初演作品でも無限の表現をもって成功に導くことだろう。現代曲は激しいピッチカートも多く、さぞ指が痛いと思う。チェリストは心身共に、強靭でなければならない。
 岡本さん26歳の、忘れられない無伴奏リサイタルになった。(G)
 
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第5番 ハ短調 BWV1011
ヒンデミット:無伴奏チェロ・ソナタ Op.25-3
デュティユー:ザッハーの名による3つのストロフ
藤倉 大:osm~無伴奏チェロのための(トッパンホール15周年委嘱作品)
カサド:無伴奏チェロ組曲
クラム:無伴奏チェロ・ソナタ
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 普通ならどれか1曲弾くのすら困難な難曲をこれだけ並べて、しかもどの曲もそれぞれの様式感・個性を捉えて全く別の表現で、軽々と弾いてしまう、ただただ驚くばかり。更に後から聞いた話で、右手の炎症により年末のチェロアンサンブルと、翌週の室内楽のコンサートをキャンセルするほどコンディションが悪かったそうだが、それでこのレベルとは全く驚き。日本の若手チェロ界は人材豊富だが、中でも頭抜けて世界レベルなのは明白だと改めて感じた。
 藤倉作品は同じトッパンでのケラスの世界初演を聴いていて、「曲が長過ぎる」など生意気なことを書いてしまった。確かに最後の方少しだれる(演奏ではなく、曲自体)が、今回改めて聴いてみて和風を表面的でなく音で表現しているオリジナリティ溢れる名曲だと思った。
https://gruen.blog.ss-blog.jp/2016-06-22
 前週の高崎公演は録音されていてCDが発売されるが、この曲の代わりに「文楽」が演奏されている。できればこちらを録音して欲しかった。文楽は既に録音も多々あるし、実際大した曲ではない…
 この藤倉作品をまともに弾けるのは、世界でもケラス・岡本クラスの奏者だけだし、是非録音して欲しい。(B)
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